プライマリーケア
1.プライマリケアの構造
イングランドのプライマリケア機能は、GP(かかりつけ医)とプライマリケアトラスト(PrimaryCareTrust、以下PCT)から構成されている。ここでは、まず日本には存在しないPCTという機構について説明したい。
ご存知の通りイングランドでは、NHS(国立保健サービス)が全国民の保険と医療の機能を担っている。PCTは、このNHS(国立保健サービス)の地方末端組織として、国民(保健省)とNHSを代表し、保健、医療上の目標をたて、地域のGPを統率して公的医療保険資金の有効活用を図ることを任務としている。具体的には、国から医療費の配分を受けた医療費を各種の健康増進プログラム、インフラ投資、GP、医療機関へ投資し、その成果管理を行っている。また、医療供給体制の設計、供給量の管理も行っており、医療機関の新規参入、統廃合を企画する、各種医療機関の役割を見直すことも重要な業務となっている。
2007年10月現在イングランド全体に152のPCTがある。平均的なPCTは、人口50万人程度を管轄、1200億円程度の保険金を運営。また管轄地域内には、1つの総合病院があり、100名前後のGPが活動している。一般的なPCT は事務方で150名前後の人員を持ち、地域住民の健康管理(PublicHealth)、GP、病院との契約およびその管理(Commissioning)、財務の機能に多くの人員が配置されている。加えて、PCTは、600人から1200人の看護士と療養型施設からなる訪問看護部隊を持ち、医療サービスの提供も行なうが、政府の方針として医療サービス機能は今後PCTから切り離していく方向にある。PCTは、PCT自体の経営陣と外部の人材からなる取締役会により統治され、地域住民に対して責任を負っている。
次にイングランドのかかりつけ医(GP)制度に関して説明していきたい。イングランドでは全ての住民が地元のGPに登録することが義務付けられている。通常各地域には、数名のGPが配置され、住民の希望と各GPの「空き状況」をもとにそれぞれの住民の担当GPが決まる。
住民は、病気や怪我で医療行為が必要となった時、まずGPに相談することが義務付けられている。GPが初期診断をし必要に応じて病院へ患者を紹介する。但し、最近は病院の救急窓口に直接アクセスする患者も増えつつありGP制度の空洞化が懸念されている。
GPは、患者の診断、治療のみではなく、保健省およびPCTの依頼を受けて、国と地域の医療、保険政策の執行の役割も担う。具体的には、患者への健康カウンセリングなど健康増進プログラムの推進を手伝うともに、GPの代表者がPCTと共同でより経済性の高いケアパスウェイ(標準的なケア)を設計する、医薬品の使用基準を作成するなどの活動を行っている。
このようにGPは、実務上はPCTの末端組織として活動しているが、法的な位置づけとしては、伝統的にNHSの仕組み内の独立事業者となっている。最近は、医療サービスの質の担保、経営効率の改善の観点から、単独ではなく複数のGPで事務所を組織し運営することが政府の方針として進められ一般的なGP事務所(Practice)は複数のGPからなる。PCTは、毎年各GP事務所と医療サービス提供契約を結ぶ。契約は、GPが担当している住民の数をベースに決められる人頭方式で、サービスの質や、政府方針の実行状況をベースにした評価の仕組みで高得点を得ると追加のボーナスを受け取ることのできる仕組みとなっている。また、最近は、GP事務所として、GP業務のみではなく2次医療(簡易な手術、診断など)に事業進出するケースも増えてきている。一般的なGPの年間収入は1500-3000万円程度。