プライマリーケア

2.プライマリケアの役割-医療資源の効率的な活用

イングランドNHSは、PCTとGPを通じて医療資源の効率的な活用を進めている。以下、各地のPCTとGPが実施している主な政策の中で、ケアパスウェイ(標準的なケア)、紹介抑制、急患管理、薬剤の適正使用、医療提供体制の設計について説明していきたい。

  1. ケアパスウェイ(標準的なケア)の設計と定着
    イングランドでは、NICE(National Institute of Clinical Excellence)という機関が主要な疾患に対して医療成果とコストの観点から望ましい標準的なケアを決定している。しかし、労働党政権は、地方分権を進めており、医療に関しても地方間のニーズの違いを汲み取るため、PCTに治療標準の設定の権限を与えている。PCTは、GPの代表者と共同でNICEのガイドラインと矛盾しない範囲で、独自のケア標準を設計する。また、設計されたケア標準の遵守をGPの評価項目の核に組み込み、定期的にその定着状況を確認し、定着を図っている。最近は、政府の方針として医療行為を病院からGP、患者の自宅へ移す、コスト効果の低い治療は減らしていくことが求められており、PCTのケア標準もこの方針を反映した内容となっている。この方針の結果、一部治療分野では医療費の5-10%前後削減が実現している。


  2. 紹介抑制
    病院への患者紹介の抑制も医療費削減の大きな切り札となっている。PCTは、GPと共同で病院への患者紹介に関して明確な基準を策定し、GPに対してその遵守を呼びかけている。患者紹介を直接的に管理するために、医師と看護婦から構成される紹介支援センターを設置し、全ての患者紹介をスクリーニングし再承認する仕組みを導入しているPCTが増えている。


  3. 急患管理
    GPの紹介なしに直接病院の救急窓口を訪問する患者を削減するために多くの施策が実行されている。最も一般的なものは、病院の救急窓口にGPと看護婦から成る患者より分け部隊を設置し来訪者をニーズに応じてナース、GP、専門医により分ける、看護士部隊を編成し老人ホームなど急患の発生率の高いグループへの研修、対応を行う、などがあげられる。これらの施策の結果、一部のPCTでは病院の急患取り扱い数を1割以上削減することに成功している。


  4. 薬剤費の管理
    ケア標準と同様、PCTとGPは、NICEの国家ガイドラインに沿って、地域のフォーミュラリー(薬剤使用方針)を決定し実行する。PCTの薬剤担当部門と地域GPの薬剤担当委員、病院の薬剤部門長が共同で、フォーミュラリーの策定にあたる。各疾患に関して効果とコストの面から地域で使われる基準薬が通常一つに絞り込まれる。また、同種同向品や後発品がある場合最も安価なものが自動的に選定される。フォーミュラリーは現在65-85%の割合で実行されており、遵守率は、数年後に85%前後に達するとみられている。