費用対効果向上への取り組み

3. 治療のコスト効率の改善

医薬品同様、医療行為についてもValue for Moneyの観点からの厳しい管理が行なわれている。また、治療内容だけではなく、治療がコストの観点からどのような医療機関で行なわれるべきかということに関しても、適正化がはかられつつある。ここでは、医療行為の標準化と、医療機関間の役割の最適化について説明していきたい。

医療行為に対するガイドラインの設定と定着

NICEは、医療行為に関しても効果とコスト対効果の観点から、国家ガイドラインを作成している。医薬品と同様にQALY 3万ポンドがひとつの目安とされ、これ以上のコストのかかる治療に関しては、原則として認めないという方針を貫いている。混合診療は禁止されていないが、NHSで認められていない治療はNHSの病院では受けることが出来ない場合が多いためには、患者は民間病院に行くこととなる。

保健省は、全国のPCTに対してNICEガイドラインに基づいて作成したMap of Medicineという標準治療プロトコールを、配布している。Map of Medicineには、各疾患に関して、どのような症状の患者に対してどのような治療を行なうべきかという標準的なアプローチが示されている。Map of Medicineの対象範囲はNICEよりも広い。

また、Royal Colleges という医師の団体があり、臨床成績の観点から最適な治療プロトコールを提言し、NICEの有力な情報源となっているとともに、現場の医師の協力を得るための大きな支えとなっている。

PCTは、前述の通り、地域住民の利益という観点から、これらの情報をもとに最適な治療ガイドラインを作成する。具体的には、PCT内のPublicHealth(保健担当)部門とGPの代表者がリードをとり、地域の中核病院の医師などと相談をしながら、その地域に相応しい治療ガイドラインを作成する。例えば、肥満による生活習慣病が問題となっている地域においては、より幅広の健康指導や早期の投薬などが行なわれる。

これらのガイドラインは、医薬品のフォーミュラリーの実施と同様に、GPへの指導と病院との保険契約の管理という形で実行される。現場の医師は、ガイドライン化された医療を概ね受け入れている。背景には、NICE、Royal Collegesなど科学的な情報に基づき、中立的にガイドラインを設定する機関があること、また、全員がNHSの構成員であり究極的には利害が調整されているということがあるのではないか。