イギリスの医療制度
-地方自治体との連携

1. 地域連携強化の背景

イングランドが医療と自治の連携を強化している背景には、1)地方分権、2)人権の尊重、3)慢性疾患患者の増加、4)社会問題の有機的な解決、の4つの要因がある。

1) 地方分権

イングランドでは歴史的に政治の基本的なユニットが自治体(市や郡)となっている。今日でも自治体は、中央政府に対して対等、もしくは中央政府とは別のものという感覚が残っている。また、労働党政権は、住民がコミュニティーという場を通じて、積極的に政治に参画することにより、社会的な一体感が高まり、様々な社会問題の解決につながるという思想を持っており、住民による自治の強化を大きな目標としている。

2) 人権の尊重

労働党政権の思想的バックボーンのひとつに人権の尊重がある。この人権尊重という観点から社会的弱者に対して社会全体が協力して保護にあたるということを目指している。特に、医療と自治の連携という観点では、高齢者や身体障害者の人権を尊重し様々な公共サービスの提供者が連携して、ユーザーに視点に立って統合されたサービスを提供すべきという方針を打ち出している。

3) 社会問題の有機的な解決

イングランドでは所得格差が大きな問題となっている。特に低所得者が多い地区では、失業、犯罪、劣悪な居住環境、アルコール依存などの社会問題が、鬱や肥満、喫煙、若年者の妊娠などの保健上の問題と複雑に絡んでいる。労働党政権は、これらの課題に対して管轄する公的機関が各々独自に対応するのではなく、協力し一体となって対応していくことが重要だと考えている。

4) 人口の高齢化と慢性疾患患者の増加

長寿と人口の高齢化にともない、イングランドにおいても糖尿病、高血圧などの慢性疾患の患者が増えている。また、認知症や体が不自由なため、介護を必要とする高齢者の数は大きな伸びを見せている。高齢者は、コミュニティーの中で出来る限り自らの力で生活しているほうが、健康をより長く維持できるというコンセンサスが形成されているが、介護体制の不備から必要性が無いにも関わらず医療機関に入院している場合が多く、地方の保険組合の負担を大きくしている。