イギリスの医療制度
-地方自治体との連携
2. 地域全体での協力体制の構築
労働党政権は、医療、教育、公安、住宅など、地方の公共サービス全体の有機的な連携を進めるべく、自治に関する一連の法改正を行なってきた。
地域戦略パートナーシップ(Local Strategic Partnership)
まず、2001年より、自治体が地域戦略パートナーシップという会議体を組織することを義務付けている。地域戦略パートナーシップとは、地域にある公的機関の会議体で、具体的には、自治、警察、教育、住宅、雇用、商工、医療、福祉の各機関の幹部がメンバーとなっている。自治体のリードのもとこれらの機関が共同で、当該地域の課題を洗い出し、その解決にあたる。最終的な責任は自治体が中央政府ではなく地域住民に対して持つ。(政府の公式サイトへのリンク)
地域戦略(Local area strategy)
地域戦略パートナーシップは、3年毎に地域戦略を立案する。課題の検討と戦略の立案にあたっては、国から以下の4つのテーマが与えられている。
- 青少年の健全な育成
- 健康的なコミュニティー(保健)と高齢者の福祉
- 安全で結束力のある地域社会
- 長期的な視点から、経済的、人口動態的に安定した地域社会
これらのテーマは、現政権の自治の重点政策をそのまま反映している。戦略の立案は、自治体のリードのもと、地域戦略パートナーシップを巻き込みながら行なわれる。
地域のニーズ分析(Joint Needs Assessment)
地域戦略の立案にあたっては、地方の保険機構(PCT:Primary Care Trust)と自治体の福祉サービス担当(イングランドでは、未成年担当と成人担当にわかれている)の代表者が共同で、地域住民の健康と医療サービスへのニーズに関して「地域のニーズ分析」という報告書を作成する。この報告書は、「地域戦略」を立案する際の重要な参考情報となる。
地域政策(Local area agreement)
地域戦略パートナーシップは、地域戦略に基づき具体的な施策を立案する。これらの施策は、「地域政策」と呼ばれ、具体的な目標、施策、関連公共機関の役割分担、財源などを含んでいる。「地域政策」は、自治体と中央政府との「契約」とみなされ、中央政府は、「地域政策」の進行状況について目標管理を行う。但し、自治体は、あくまでも地域住民に対してのみ責任を持っているため、この目標管理の位置づけに関しては不透明となっている。
「地域政策」は、2006年度より実験的に運営されてきた。
例えば、オクスフォード地区の戦略パートナーシップは、以下の9点について具体的な地域政策をまとめ、住民と国と合意に至った。各施策に対して、具体的な目標が掲げられ、関連公共団体の役割と資金分担が決められている。
- 地元経済の活性化
- 増加する人口に対応した住宅の供給
- 交通渋滞問題の解消
- 教育の普及、特に職業教育の強化
- 街路の美化と住環境の改善
- 犯罪の削減、特に反社会的行動の抑制
- 健康改善、特に貧困地区における平均寿命の改善
- ごみの分別化の促進
- 資源の有効活用
2008年度より、全自治体で「地域政策」の策定が義務付けられる。
地域の総合評価(Comprehensive Area Assessment)
地方の公共機関の活動は、多くの省庁が独自の指標を用いてモニターしている。例えば、医療に関しては、保健省、NHS(国民医療サービス)とHealthcare Commissionと呼ばれる政府系の審査機関が、医療のサービスの質、経営状況などに関して定期的にレポートをまとめて、公表している。また福祉に関しては、 CSCiと呼ばれる政府系の審査機関が、ケアホームや介護事業者(自治体を含む)がその質について毎年調査を行なっている。政府は、業務の効率化とより一体感を持った地域運営を促すため、これらの指標を統一し、ひとつのプロセスで運営する方針を打ち出し、来年度から実施に移す。これにより、地域の生活環境や公共サービスの質をモニターする指標は198にまとめられることとなる。前述の「地域政策」の際、具体的な目標設定は、「地域の総合評価」の指標を用いて行なわれる。以下は、医療に関する指標の例: